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手付放棄、手付解除とは?

手付放棄・手付解除って何?
手付放棄・手付解除って何?

「手付放棄、手付解除って何?」
「売買契約の時になんか聞いたけど、良くわからない」
「履行に着手するまでっていつ?」
不動産の売買契約の時に何となく聞いた手付というワード
「何となくサインしてしまったけど、もし解約するとしたらどうなるの?」
「手付解除出来ない事ってあるの?」
そんな疑問に業界歴40年以上のベテランであり不動産会社の創業者である私が
手付放棄や手付解除に関する全てを解説します。

著者プロフィール 


株式会社ドリームプランニング 相談役 高橋政広

中央大学商学部卒 株式会社三武などを経て、2005年 底地、再建築不可などに特化した不動産買取業者「株式会社ドリームプランニング」を創業 同年代表取締役に就任 2020年より同社相談役 不動産コンサルティングマスター・宅地建物取引士

【必見】手付放棄したいとき、されそうで困った方とき

手付とは

不動産の売買契約など、何かを売買する時や、サービス提供を受けるときに、契約時に支払う代金や有価物の一部の事を指します。
これを手付金と言い、残代金の支払いの時に、売買代金の一部として充当されます。

また、宅建業法では売主が宅地建物取引業者で、買主が宅地建物取引業者以外の者である場合には、手付は代金の2割を超えてはならないという制限を設けています。
なお、この手付金の額の制限について、これに反する特約で買主に不利なものは無効となります。

売主が宅建業者の場合は手付金は売買代金の2割を超えてはいけない
売主が宅建業者の場合は手付金は売買代金の2割を超えてはいけない

手付金の保全措置

宅建業者は自らが売主となる宅地や建物の売買の際には、受領前に保全措置を講じた後でないと手付金や中間金を受領できません。
保全措置とは、手付金を支払って契約をした後に売主が倒産などをしてしまった場合、手付金が戻ってこなくなってしまうため、そのリスクを防ぐために銀行などと保証契約を結ぶことを言います。

そして、保全措置については、下記の3つの方法があります。

 内容未完成物件完成物件
銀行等との保証契約手付金について銀行が保証する内容の保証委託契約を締結利用可能利用可能
保険会社と指定の保証契約保険会社と保証保険を締結利用可能利用可能
指定保全機関による保全手付金を保管してくれる契約利用可能利用不可

宅建業者が上記のような保全措置を講じない場合、買主は手付金の支払いを拒むことが出来ます。

この時、宅建業者は銀行等の保証書や保険証書などの書面の交付をしなければならないのですが、実務上は保全措置が講じられることは少なく、次の項でご説明するように保全措置が不要な場合に該当するとこがほとんどです。

売主が宅建業者の場合、基本的に手付金の保全措置が必要になります

手付金の保全措置が不要な場合

  • 買主に所有権の移転登記した場合
  • 未完成物件:代金額の5%以下かつ1000万円以下の場合
  • 完成物件:代金額の10%以下かつ1000万円以下の場合

「かつ」という点に注意が必要です。
また、中間金などがある場合は、「手付金の額+中間金の額が未完成物件で5%、完成物件で10%を超えると手付金の保全措置が必要」になります。

例えば5000万円の未完成の新築一戸建てを売買する場合で、手付金が250万円、中間金が500万円の場合、手付金受領の段階では5%以下かつ1000万円以下なので手付金の保全措置は不要ですが、中間金を授受するときには、手付金と中間金の合計が750万円となり、売買代金の5%を超えるので、750万円全てに保全措置が必要になります。

手付解除とは

手付解除とは、支払った手付金を放棄する事で、契約を解除することを言います。

手付金は、不動産などの売買契約を締結した際に買主から売主に支払われるものである事は前述したとおりですが、契約を解除したい場合は、買主は支払った手付を放棄することによって、売主は受け取った手付金の額の2倍を支払う事で契約を解除することができます。

厳密にいうと、手付金には以下の3つの種類があり手付を解除できるのは解約手付の場合です。

売主は手付金を放棄することで、買主は受け取った手付金の2倍を支払うことで契約解除が可能
売主は手付金を放棄することで、買主は受け取った手付金の2倍を支払うことで契約解除が可能

手付金には3つの種類がある

手付金は3つの種類があり、宅建業法では、消費者保護の観点から手付金は基本的に解約手付になります。
解約手付は放棄する事で任意で売買契約を解約出来ます。

解約手付一方の当事者だけの意思で契約解除可能。買主は手付金を放棄して、売主が手付金の額の倍額を返還する事で契約を解除できる
違約手付債務不履行があった場合、買主が違約の時は手付金が違約金として没収、売主違約の場合は手付金の返還と、手付金と同額の違約金を支払う
証約手付売買契約が成立した証として、買い塗から売主に交付される手付金
手付金の種類

手付解除が出来る期間

手付解除を出来る期間については、宅建業法や手付解除期日を定める事によって、決まっています。
そこで、民法で定められている「手付解除の期間」と、実務では特約として行われている「手付解除期日」について書いてご説明いたします。

民法が定める手付解除期日

民法557条では、手付解除期日を「当事者の一方が契約の履行に着手するまで」と定めています。
こうなると売主も買主も、いつ解除されるか分からないため、契約的に不安定な立場に立たされてしまいます。
このため、最近はいつの時点までであれば契約解除が可能なのかを明確にすることが一般的となっております。

手付解除期日について

このため、売主が一般の方の場合には、民法の手付解除期限「相手方が契約の履行に着手するまで」に対する特約として「手付解除期日」を当事者の合意により定めることとなっております。
一般的には引き渡しの2週間ほど前から、契約と決済の中間位の日程で手付解除期日が決められることが多いです。

しかし、手付解除期日が設けられるのは売主が一般の方の場合に限られ、宅建業法第39条2では、売主が宅建業者の場合は民法と同じく「相手方が契約の履行に着手するまで」が手付解約の期限になると定めています。

手付解除した場合の仲介手数料の支払いについて

不動産業者に仲介をしてもらって不動産を契約した場合の仲介手数料ですが、不動産業者の媒介報酬請求権は、①媒介契約、②媒介行為 ③売買契約の成立、④媒介行為と売買契約成立との因果関係によって発生します。
その為、仲介業者の媒介報酬権の発生時期は売買契約成立時であると考えられます。
つまり、不動産の仲介手数料は契約した時点で請求されるものと考えられていて、手付解除された場合でも、仲介手数料の請求権は無くなりません。

最近の判例では手付解除によって契約の目的が達成されなかった場合、仲介手数料の一部が減額されると判断されたものもあります。
これらの判例に基づき、実務では仲介手数料の請求権が無くならないにしても、減額して支払う事になるのが一般的です。

手付解除の相手方が履行に着手するまでとは?

手付解除期日を設けなかった場合、民法通りに「当事者の一方が契約の履行に着手するまで」は手付解除が出来る事になってしまいます。
履行の着手について、ちょっと小難しい言葉でいうと「客観的に外部から認識しうるような形で履行行為の一部を行った場合、又は履行の提供をするために欠くことのできない前提行為をした場合」という事になりますが、普通に引き渡しの準備位の場合は履行に着手するとは言えません。

そこで、手付解除期日を定めなかった場合、売主・買主それぞれが「履行に着手した」と認められ、手付解除出来なかった判例と、「履行に着手した」と認められず、手付解除が出来た場合について判例を解説します。

売主が「契約の履行に着手した」と認められた判例
(買主は手付解除出来なかった判例)

売主が契約の履行に着手したと認められるもの、認めらなかったものはかなり微妙な所ですが、完全に引き渡しの準備をしていたかどうか、引き渡すために必ず必要な事かどうかが判断の分かれるところになるようです。

以下は、売主が「契約の履行に着手した」と認められた判例の一部です。

  • 売主が立ち退き前提とした売買における移転先にリフォーム(東京地判・平21・9・25)
  • 買主名義の建物表題登記の実施(東京地判・平25・8・7)
  • 決済日に売主が所有権移転登記に必要な書類を揃えて決済場所についた(東京地判・平25・9・4)

売主の「契約履行の着手」が否定された判例
(買主は手付解除出来た判例)

売主の「契約履行の着手」が否定されるのは、悪意があったり、必ずしも引き渡しにあたってしなければいけない事とみなされるかどうかが判断の分かれ道になります。
以下は、売主の「契約履行の着手」が否定された判例です。

  • 売買対象地確定のための売主業者の測量・分筆作業(東京地判・平25・4・19)
  • 便宜的な建物の鍵の引き渡し(東京地判・平20・6・20)
  • 分譲マンションのローン申し込み、オプション工事の申し込み等(東京地判・平29・2・27)

売主の「手付解除」が否定された判例

売主が手付解除を否定されるときは、手付解除により買主に重大な損害が生じた場合に多いです。

  • 売主の開発の事情により売買契約の履行期 が延長されたが、買主の協力を得るなどして 当該開発が完了したところで、売主が手付倍返しによる契約解除を行った(東京地判・平元・12・26)

買主が「契約の履行に着手した」と認めれた判例
(売主は手付解除出来なかった判例)

買主が「契約の履行に着手した」と認められた判例の多くは、手付金以外に中間金などを支払ったことや、残代金を支払えるように既に準備していたことなどです。
履行を信頼したことによって被害を被った場合は、履行の着手をしたと評価されるようです。

  • 中間金の支払いなど、履行行為の一部が行われた場合(神戸地判・平4・2・28)
  • 他人物売買において売主名義に所有権移転をした(最大判・昭40・11・24)
  • 買主が残代金を準備し、再三にわたり売主に催告を行った(最一判・昭57・6・17)
  • 農地法5条の許可を受ける前だったが、買主に残代金を支払った(最二判・昭52・4・4)
  • 買主がしばしば買主に履行を催告し、残代金の受け取りを求めた(最一判・昭51・12・20)
  • 契約後ただちに取引銀行の融資承認を取り付け、いつでも残代金支払いが出来る状態で待機をした(横浜地判・昭63 ・4 ・14)
  • 売主が海外に投稿した場合に、買主が残代金を用意し履行催告の内容証明郵便を発信した(東京高判・昭47 ・6 ・29)

買主の「契約履行の着手」が否定された判例
(売主は手付解除出来た判例)

  • 転売目的の買主業者の物件の測量・整地 等や転売先の探索・転売契約の締結(東京高判・平3 ・7 ・15)

買主の「手付解除」が否定された判例

  • 買主が履行期を延長した後に行った手付 解除(東京地判・平21・11 ・12)
  • 売主が測量、分筆を行っていた場合の履行日当日の買主の手付解除(東京地判・平21・7 ・10)

バブル期に横行した手付解除

余談にはなりますが、過去の判例を見ていくとバブルが弾けるまでの不動産の価格が上昇していたころに、売主の手付解除や違約によるトラブルが横行していたことが分かります。

バブル期に体験した売主による違約による契約解除

バブル期は不動産を購入すれば、購入金額の何割増かで必ず売れる時期でした。

当時勤務していた会社(以下当社)が買主、売主は一般の方で、地元の不動産業社が仲介し当社は横浜市金沢区にあるアパートを購入すべく売買金額の10%の手付金を支払い売買契約を締結しました。

契約後決済までの間買主である当社は測量士に測量を依頼し測量業務を進めておりました所、契約から2週間程経過したある日仲介した不動産業者から連絡があり売主が違約金を支払うので売買契約を解除してほしいとの事、当社はやむなく契約の解除に応じ売買契約を解除しました。

当時は土地の価格が上がり続けていた時でしたから、売主がもっと高く売れるだろうと判断し契約解除したのだろうと推測しました。

当社は当該物件のその後のことが気になり当該物件を仲介した不動産業者と連絡を取っておりましたが、当社との売買契約解除後、新たな買主と契約したという情報は得られませんでした。

当社との売買契約解除から約1年後に、当該物件を仲介した業者から物件がまだ売れていないとの情報が入りました。

売買契約解除直後不動産バブルが弾け、結局売れなくなったようですが、当時は同じような出来事が沢山ありました。

手付解除で困らない為に

手付解除で困らないようにするために、基本的に手付解除期日を定めるようにしましょう。

また、「手付解除をしたい」「手付解除をしたいと言われた」などで困ったら、ウチカツを利用して不動産の相談をしてみましょう。

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